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ニュースリリース

塾長ブログ vol.65【私の師匠② 「最初の課題」】

2025年01月08日更新

みなさんこんにちは。
先日のお話の続きです。


K教授の研究室を訪れた翌日、私はもう一度約束した時間に研究室に行きました。

「昨日はありがとうございました。連日お時間を割いて頂いて申し訳ないのですが、K先生の研究について教えて下さい。」

K教授は、生命科学の基礎講義を修了していないまだ素人同然の僕にもある程度理解できるように、専門用語の使用を最小限にして研究成果の概要を説明して下さいました。(難しい話になるので、ここでは内容は省略します。)

昆虫の体内でそんなことが起こっていたのか...。

寿命の短い昆虫が一斉に羽化し、繁殖を成功させるメカニズムに自分も興味を持ったことはあったけれど、実際に人生を賭して研究に打ち込んで謎を解明した張本人であるK教授のお話を聞いて、やはりこの先生はスゴイ人だと尊敬の念を抱きました。

研究の話を進めるうち、だんだん熱が入り、K教授の目が少年のようにキラキラしていたことが印象的でした。
せん越ながら、生き物の話をしている時の私と同じだと思いました。
(私も友人や当時の塾生から、生き物の話をしている時は目がキラキラしていると度々言われていたもので...。)

「K教授!研究室分属の際には、ぜひ僕をこの昆虫機能学研究室に入れて頂けませんか。そして、もしお許し頂けるなら、先生のお暇な時で充分ですので今後も時々お話を伺えませんか。」

この申し出をK教授は快諾して下さったのでした。
(もちろん、分属には競争が生じますが、正式な分属前でも研究室に時々来ることはお許し頂けました。)


そして、月日は流れ、K教授の最初の講義『応用生命科学概論』を履修する日がやって来ました。

私は、普段は絶対に座らない講義室の最前列のド真ん中の席に座り、K教授の講義が始まるのを待ちました。

この講義のことは、20年以上経った今でも忘れません。


「ここにいる君たちは、これから自然科学や生命科学について学び、専門知識を身に付けて世に出て行く人たちです。大学院に進学して研究者を目指すにせよ、学部卒で一般企業に就職するにせよ、どちらにしても専門知識を持った〝有識者〟として、社会に出ることになることは間違いないと思います。この『応用生命科学概論』の講義では、これから専門知識を学ぶ君たちに、ぜひ考えてもらいたいこと、そしてできれば今後も考え続けて欲しいことについて話していきたいと思います。」

やっぱり熱い...。導入から熱かったんです。
師匠のお話は、初めから熱を帯びていました。
恐らくこれは、研究者としての矜持と、教育者としての矜持が織り交ざって生じる熱なのだと私は感じました。

この頃、私もがっつり集団塾で〝塾の先生〟をやっていましたので、普通の学生よりも人前で話す人の姿勢に敏感だったのかも知れません。

K教授の講義は続きます。

「さっそく君たちに考えてみて欲しいことがあります。それは、「人間はどの段階で人間なのか」ということです。精子や卵子は人間だと言えるだろうか?ここにいる諸君なら、きっと「NO」と答えるでしょう。精子や卵子は、あくまで細胞の一つに過ぎないからです。では、人間の受精卵ならどうでしょうか。そのまま順調に育てば、一人前の人間になるはずの受精卵を、もしも潰してしまったら、それは人の命を奪ったことになるだろうか?君たちはどう思いますか?」

予期せぬ教授からの問い掛けに、講義室は静まり返りました。

そして、当てられた学生が答えました。

「人の受精卵を潰してしまっても、それは人の命を奪ったことにはならないと思います。」

「ふむ。それはどうして?」

「妊娠から22週未満であれば、中絶が認められており、法的にも殺人罪には問われないからです。」

「うん。確かに、彼がいま言ったことは、日本の法律上正しいことです。受精から22週未満であれば、罪に問われないことになっています。だけど...、それはあくまでも法律上の話です。私たち自然科学者が向き合っていく生命に対する倫理観と、法律上の線引きが必ずしも同じであるとは限りません。法律上問題無いからと言って、生命の倫理に反しないということにはならないのです。」

私はこの時、K教授はとても大切なことを、これから自然科学を専門的に学ぶことになる私たちに考えさせようとされているのだと感じました。

K教授は続けます。

「私たち自然科学者は、常に緊張感をもって、〝生命〟というものに向き合わねばなりません。たとえ、世界中の科学者たちが答えを出せていないような難題であっても、あるいは、世界中の人々が正しいと信じ込んでいるようなことに対しても、私たちは、自分の保有する専門知識や倫理観を頼りに、自分なりの答えを有識者としてきちんと持っていなければなりません。」

K教授の講義を受けていた学生たちの空気が明らかに変わりました。

「ということで、私からの最初の課題です。〝人はどの段階から人としてその生命を尊重されるべきか〟について、レポートを書いて提出して下さい。受精卵からなのか、2細胞期、4細胞期、桑実胚からなのか、意見はそれぞれあっていいと思いますが、かならず科学的知見に基づく根拠を述べるようにして下さい。」


かくして、師匠からとてもとても難しい最初のレポート課題が出されたのでした。


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